日曜日、渋谷公会堂に、学生時代からの友人の奥村伸二がリードボーカルを勤めるアカペラグループ、INSPiのワンマンライブを見に行った。
渋谷公会堂でワンマン!と言えば聞こえはいいが、ここまで来るのにINSPiが、紆余曲折あり、それこそ血のにじむような努力をしてたどり着いたのを聞いていたから、2階席までほぼ満席に埋まった客席を見たときは、ちょっと、我が事のように嬉しかった。
INSPiならではの、芝居チックな演出のあるライブはとても面白いのだが、ライブの最中、どうも、心の底から楽しめて無いような気がして。
なんでだろうなんでだろうと思ううち、嫉妬の様な感情に気がついて。「成長ぶりを見極めてやれ」的な感情で、演奏の粗探しをしながら聞いている自分に気がついた。
ああ、そんな気持ちで音楽を聞いても、楽しめないなーと思った。
* *
ミュージシャンにはありがちなのだが、
あるいは耳の肥えたリスナーにもありがちなのだろうが。
まるで演奏者を試すような目で、耳で、音楽を聴くこと。
この行為自体は悪くないと思う。むしろ当然だ。ミュージシャンにとっては同業者のワザを見極めようとするのは自然な感情だし、耳の肥えたリスナーは自分をより満足させてくれる演奏者を探すものだ。
だけど・・・
入り口がそれだと、すべてが減点法になってしまう気がして。
いいところもあるのに、減点するのに一生懸命で、本来聞くべきところもきかず、伝わるものも伝わらないような気がして。
そこにあるものを、そのまんま、受け止められないような気がして。
* *
先月半ばに友人の出演する芝居を見に行った。
アントン・チェホフというロシアの劇作家の代表作4作をオムニバスで演じる舞台だった。
2時間という限られた時間で4作、しかも小説としては古典の部類に入るだろう作品を再現した舞台は、とても大げさというか、いかにも「舞台!」という演出がされていて、僕がよく知り合いの役者に誘われて見に行く小劇団の、ストーリーの起承転結がはっきりした現代芝居とは明らかに表現しようとする世界が違っていた。
正直、ストーリーもわかり易くはなかったが、その舞台からは、はっきりと表現したいものが伝わって来て、感情移入したりすることはなかったけれど、それはそれで楽しめた。
それを観劇後、出演していた知人に話すと、
「なんだか、寛容だねぇ」と言われた。
後から聞けば、「わかりづらかった!」という意見が大方だったのだという。
* *
僕は演劇に詳しい訳では全くない。
見に行くのは好きだが、特に好きな役者もいなければ、
下調べをしたりすることもほとんどない。
ただ行って、真っ白なニュートラルな状態で見て、楽しむだけ。
おそらく、それだから難解なチェホフを再現した舞台も見たまんま感じれたのだと思う。
音楽を聴くときも同じなのかなと思った。
ニュートラルな状態で音楽を聴くことなんて、気がつけばほとんどない。
何も知らず、真っ白でただ入ってくる音楽に身を任せてみるなんて。
そんな事、記憶にすらないかも。
いつも、こいつの音楽は何だこうだと、難クセつけるような。
尊大で威丈高な聞き方の様な気がしてきた。
それじゃ、伝えたい事も受け取れない。
自分の期待とそぐわなかった場合は、演奏を全否定しかねない。
* *
INSPiはすごく良かった。
必死さと達成感と感謝の気持ちがとても伝わって来たよ。
一部、オケに合わせて歌ったり、楽器隊と一緒だったりしてた。
きっとこの渋谷公会堂は、次のステップへの分岐点なんでしょう。
INSPiは変わろうとしてた。
きっとものすごく勇気のいることなんだろうが、
そうせざるを得ないっていうネガティブなものよりも、
先へ先へというポジティブな物の方を多く感じたよ。
最後、ダブルアンコールでのマイクなしのアカペラはちょっと感動しました。
いいライブだったと思います。