撮影:細野晋司
ガラスの動物園・消えなさいローラ、昨晩大阪にて大千穐楽を迎えまして、無事終演いたしました。
キャスト・ミュージシャン・スタッフ、そしてご観覧くださった方々に、厚く、厚く、御礼申し上げます。ありがとうございました。 公演を終えての私個人の所感はまた別の機会に譲るとして、こちらも終わらせないといけませんね。 劇中音楽ノート6回目は、消えなさいローラの音楽についてです。
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消えなさいローラの音楽は2020年の初演の時に基本的な骨組みは作ってありましたから、それをベースにしつつ、どうやってガラスの動物園とのリンクを作るかということに主眼を置いての作業になりました。
まずは冒頭のヴァイオリンのど迫力ソロ演奏、あれは17世紀のイタリアの作曲家ヴィターリという人が書いたシャコンヌという形式の曲です。これは前回の演出に引き続き採用されて、当初ガラスとのリンクのためにガラスの冒頭にもこの曲を演奏することが検討されてました。結局その案は採用されずでしたが、えりさんの中ではこの曲は消えなさいローラの動かせない重要な要素であったようです。 そしてその次にトムの独白の後ろでバンドネオンが奏でていたメロディ、これが「消えなさいローラ」のテーマで、会田桃子さん作曲。こちらも初演からの引き続き採用です。この曲はアマンダがワインを飲んで死んだことをローラが告白するシーンでも演奏しました。なんというか感情を掻き立てる、いい曲なんですよね、これ。
これらの曲は前回から引き続いての採用なのです。当初私は、ガラスとのリンクを考えると消えなさいローラのテーマは少なくともガラスの動物園の変奏であるべきかなと悩んでいました。実際その曲も用意していました。が、この2曲は初演時の時の表看板というか、この曲で初演時のイメージを思い出す方も多くいらっしゃるのではないだろうかと思い至ったのです。今回の2本立ての演劇の音楽のコンセプトは「追憶の音楽」ですから、ガラスーローラという時間軸の中での追憶だけでなく、2020年ー2023年という我々を含めた現実の時間軸の中の追憶にも当てはめることになるのかな・・と。実際テネシー・ウィリアムズも台本の中で音楽は異なった時と場所に身を置く要素をつなげる役目だと書いてましたから。 というわけで、日の目を見ないボツ曲1曲を残しまして、冒頭の2曲が決定されたというわけです。 その他の消えなさいローラの音楽は、曲というよりも場の雰囲気の表現であったり、セリフを強調するマーキングのような役目をしている音が多いです。例えば歌舞伎で流れる三味線の音が不穏な空気を醸し出したり、講談師が話の合間にはり扇を叩くような、そんなイメージの音を作っています。印象的なセリフが多いですからね。あとそもそも話が謎めいているので、説明的な音楽演出は避けたいなというところでした。以下、その中でも比較的曲らしい形になっているものを紹介します。
・「滑稽なワルツ」 ローラとトムがお茶を入れる入れないでやりとりをする場面の曲です。こちらも初演時からの採用、会田桃子さんの作曲です。ガラスの中でも、アマンダとトムが口を聞かないシーンでも演奏しています。これは小さい伏線です。この曲、私大好きで、初演時に桃子さんがこの曲を持ってきた時に、なんて曲を書くんだ・・!!と嫉妬すら覚えました。すこし不穏な雰囲気を纏った曲なので、滑稽なシーンでも、不穏な空気の時でも使えます。すごいアイディアの曲ですね。
お茶のシーンでは芝居に合わせて三人で即興を交えながらやっています。その日の芝居によって変わるので毎日違ったものです。これはライブ感があって、演奏していて楽しかったですね。
・「ローラとアマンダの交錯」 ローラ扮するアマンダが、かかってきた電話に出るシーン、演奏時間は短めですが、消えなさいローラのテーマとアマンダのテーマの二つのメロディを対位法的に一つの曲にしてしまった曲があります。タイトルの通りアマンダとローラが同時に存在する曲です。初演の時に私が作ったもので、なかなか音楽技巧的は面白いことをやってると思うのですが。初演の時には一瞬しか流せず、今回はもう少し長めに演奏できましたが、インパクトとしてはイマイチだったかなー。もう少し消えなさいローラのメロディをフィーチャーする伏線が張れていたら、あるいはもっと編成が大きかったら、もっと印象的に使えたかもしれない・・・と色々使い方に後悔のある曲ですが、再演の時にまた何か扱い考えたいと思います。笑 ・「わたしたちの行末」
ガラスの動物園の序盤でアマンダがローラの行末を案じる場面で演奏していた少し浮遊感のある曲、実は動物園のテーマの変奏なのですが、これを「案じた行末の結果」として消えなさいローラでも演奏しています。葬儀屋がきたことをローラが嘆くシーン、そして、待つこととはどういうことかをトムに説くシーン。どちらもガラスの動物園の時に案じたローラの行末の結果ですね。2つの物語を結ぶ時間軸のリンクの一つです。 ・「時計の音楽」
ボーンと時間を知らせる鐘の音が鳴る時に演奏している時計のテーマ、初演時からの音楽で、こちらも会田桃子さんのアイディア。曲というには短くてどちらかというと場の空気の表現に近いですが、ヴァイオリンの重音のアイディアがうまく使われていて、かつ曲としては無機質な感じが時間の表現にぴったりだと思っています。
今回の演目の音楽としては、おおよそこんなところでしょうか。
あとはBGMとしてかかっていた当時の音源などがありますね。BGMも興味深い選曲なのですが、それはえりさんがSNSでプレイリスト解説すると言っていたので、そちらにお任せするとして。
あとは劇中の挿入音楽として「ペンザンスの海賊」の曲がありますね。こちらは劇中音楽ノートとは別に、川本の興味のトピックとして音楽ノートとは別にブログ書こうと思います。Paul Bowlsの書いた初演時の音楽の印象の話もありますものね。そちらはいつになるかわかりませんが、また近いうち、いずれ! 全6回という長いシリーズになりましたが、お付き合いいただいて読んでくださったみなさん、どうもありがとうございました!
今回の音楽の制作作業は調べ物が多かったこともあって、いち音楽ファンとしても随分と興味を惹かれとても勉強になる作業でした。劇中の余韻を楽しむのと同時に、そういった音楽トピックの一端にも興味を持っていただいて、一緒に楽しんでいただけていたらとても幸いです。
改めまして、今回のご観劇、どうもありがとうございました。 またいつの日かの、再演でお会いしましょう。
それまでどうぞ、お元気で。
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↓川本は12月に以下のライブを企画しています。
ご興味持ってくださった方、ぜひ遊びにいらしてください。
楽しいライブになりますよ。
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Partyのお知らせ!
コロナ禍をきっかけに始まった遠隔セッション配信番組「Live Jazz Streaming」が3周年の節目に記念ライブを行います。配信にゲスト出演した日本のジャズシーンの実力派ミュージシャンたちが再集結し、なかなか聞くことのできない貴重な共演が実現します。
またリーダーのピアニスト佐久間優子が描いた、配信告知用フリップの原画展も同時開催されます。ポップでかわいらしいイラストで表現された出演ミュージシャンたちの音楽世界をライブと一緒に楽しめます。ディスプレイ越しだったLive Jazz Streamingの音楽を、メンバーとリスナーが初めて同じ場所に集い共有する特別な夜の感動を体験してください!
12月17日(日)
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Party
【会場】
渋谷 JZ Brat
【時間】
1st Show →Open 14:00 Start 15:00(16:20終演予定)
2nd Show →Open 18:30 Start 19:30(20:50終演予定)
【システム】
入替制
予約¥5,000 当日¥5,500
2ステージ通し(1st&2nd)¥9,500 ※ご予約者対象
【メンバー】
<Live Jazz Streaming>
佐久間優子(p)
川本悠自(b)
海老澤幸二(ds)
橋本敏邦(engineer)
Special Guest:
松原慶史(g&vo)※1st
平山順子(as)※1st
山本玲子(vib)※1st
寝占友梨絵(vo)※2nd
土田晴信(org)※2nd
三井大生(vln)※2nd
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