撮影:細野晋司
ガラスの動物園・消えなさいローラ、昨晩は山形公演でした。
会場のやまぎんホールの2000席が満席になる、たくさんのお客様にご観覧いただきまして、どうもありがとうござました。
えりさんと和田さんの故郷、山形は、みなさんが暖かかった!
また近いうち、訪れたいです。
劇中音楽ノート4回目、今回はダンスシーンの音楽についてのお話しです。
* * *
ダンスシーンで使われる音楽は2つ。
ジムとローラが踊る「ローラのダンス」とテーブルの上でトムを交えて三人で踊るタンゴ風の曲「トムのミロンガ」です。
・「ローラのダンス」
音楽の制作期間の初期段階、メインテーマを書くつもりでうんうん唸っている期間に書いた曲で、今回書き下ろした曲の中では一番最初にできた曲です。当初、冒頭のヴァイオリンのソロ演奏シーンにも使えるのではと検討していましたが、その後やはり劇の最初は当然メインテーマが良いだろうということでダンスのシーンに落ち着いたという経緯がありました。なので当初の仮タイトルは「冒頭バイオリン」でした笑。
純粋なワルツではなく4拍子がまざっていて曲のテンポも伸び縮みするのですが、ゆとりのある優雅な雰囲気でダンスシーンには良く合ったかなと思っています。和田琢磨さんと吉岡里帆さんのお二人が本当に素敵に演じてくださいました。
このシーン、隣のダンスホールから漏れ聞こえるワルツという設定で最初はこの「ローラのダンス」の録音が流れ、その後生演奏に切り替わります。
この最初に流れる録音は、ダンスホールから流れる曲という設定に合わせてこの時代のダンスホールビックバンド風に管楽器リズム合わせ16人編成でこの曲をアレンジし音源を作り、それを屋外から聞こえる風に音響加工したという、実はものすごい手の込んだことをしています。笑
見てくださっている方のほとんどは、そんな細かい所まで気が付かなかったとは思いますが、こういう誰も気が付かないようなディテールへのこだわりの積み重ねが作品全体の強度とクォリティを担保するという信条のもとやってます。これは演出家・渡辺えりさんの演劇への姿勢から学んだことの一つでもあります。
・「トムのミロンガ」
ジムとローラがワルツを踊ったあと、テーブルの上で繰り広げられるトムとジム、ローラとジムのタンゴのダンスの曲です。
このシーンは、ローラの幻想のシーンでもあり(その証拠にローラのびっこがこのシーンだけ治る)、そして同性愛者であるトムのジムへの淡い想いが発露するトムの幻想のシーンでもあります。とにかく現実には起こり得ない熱い思いがほとばしるシーンであります。尾上松也さん演じるトムの切なげな表情は、バンドブースから見上げても泣きそうになります。
えりさんからは当初「トムのテーマとして、熱いタンゴの曲を、ダンスでも使うから」とだけ言われ、アストル・ピアソラ風の曲を書いていったらイメージと違うとあっさりボツになってます。笑 えりさんの演劇の音楽を作らせてもらう時は毎回わりとボツ曲も出るのですが、今回の一番盛大なボツ曲はこの曲でした。笑
その後もう少し話を伺ってみたらば「ピアソラ以前のあんまり洗練されてない古いタンゴのイメージで情熱的なもの」ということと、このダンスシーンの構想を話してくださったので、タンゴの古いスタイルのミロンガというリズムに扇情的なメロディを乗せまして書いたのがこの曲です。舞台ではヴァイオリン会田桃子さんが彼女の面目躍如というべき情熱的な演奏をしてくださってます。素晴らしい。個人的には今回書いた曲の中で一番気に入っている曲です。
この曲は劇中盤、トムが当時の世界情勢を独白するシーンの後ろでも、爆撃音とともに演奏されています。こちらはバンドネオンがメロディを担当しています。この時の鈴木崇朗くんの演奏も男性的な静かな情熱を感じて素晴らしい。この劇中トムが背負う役割とトムの感情両方を象徴する立ち位置の曲ですのでまさにトムのテーマ曲ですね。
余談ですが、バンドネオンという楽器は19世紀半ばにドイツで発明された楽器なのですが、第二次世界大戦でドイツ敗戦後、連合軍による産業解体の煽りを食って、楽器製造のノウハウが全て失われてしまったのだそうです。最近になってやっと復元に成功したメーカーも出てきたようなのですが、それまでは現存するバンドネオンは第二次世界大戦以前に作られたものしかなかったようです。
崇朗くんによるとリードを固定する部品の合金の作り方が失われてしまい作れなかったという話らしいのですが、こんな歴史的には比較的最近でも技術的に失われてしまうということが起こるというのは、改めて戦禍の恐ろしさを感じますね。
えりさんは、このような戦争の犠牲になった生い立ちを持つバンドネオンを反戦の象徴として扱い、この劇の音楽の中心に据えているわけです。
今回のお話はここまで。
カンパニーはこれから大阪に移動します。
いよいよ明後日は大千穐楽。頑張ります。
次回はブルーローズのテーマと最後の歌「夢を創る」の関係についてお話しします。
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↓川本は12月に以下のライブを企画しています。
ご興味持ってくださった方、ぜひ遊びにいらしてください。
楽しいライブになりますよ。
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Partyのお知らせ!
コロナ禍をきっかけに始まった遠隔セッション配信番組「Live Jazz Streaming」が3周年の節目に記念ライブを行います。配信にゲスト出演した日本のジャズシーンの実力派ミュージシャンたちが再集結し、なかなか聞くことのできない貴重な共演が実現します。
またリーダーのピアニスト佐久間優子が描いた、配信告知用フリップの原画展も同時開催されます。ポップでかわいらしいイラストで表現された出演ミュージシャンたちの音楽世界をライブと一緒に楽しめます。ディスプレイ越しだったLive Jazz Streamingの音楽を、メンバーとリスナーが初めて同じ場所に集い共有する特別な夜の感動を体験してください!
12月17日(日)
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Party
【会場】
渋谷 JZ Brat
【時間】
1st Show →Open 14:00 Start 15:00(16:20終演予定)
2nd Show →Open 18:30 Start 19:30(20:50終演予定)
【システム】
入替制
予約¥5,000 当日¥5,500
2ステージ通し(1st&2nd)¥9,500 ※ご予約者対象
【メンバー】
<Live Jazz Streaming>
佐久間優子(p)
川本悠自(b)
海老澤幸二(ds)
橋本敏邦(engineer)
Special Guest:
松原慶史(g&vo)※1st
平山順子(as)※1st
山本玲子(vib)※1st
寝占友梨絵(vo)※2nd
土田晴信(org)※2nd
三井大生(vln)※2nd
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