撮影:細野晋司
わたくし川本が音楽監督を務めさせていただいております「ガラスの動物園・消えなさいローラ」紀伊國屋ホールにて大好評上演中です。
渡辺えりさんの演出の下、わたくしをはじめバイオリンの会田桃子さん、バンドネオンの鈴木崇朗さんの三人ミュージシャンが楽師という役どころを仰せつかりまして生演奏で演劇に参加しておりまして、寄り添って演奏する音楽はおおよそ川本の書き下ろしのオリジナル曲で頑張っております。
Xなどで音楽についての感想をポツポツと見かけたものですから、まだ公演中ですけれども簡単に音楽の解説などを書いてみたら、観てくださった方々の観劇後の余韻の楽しみの一つにならないだろうかと思い書いてみることにしました。快く許可をいただいた主催の東急文化村さん、演出の渡辺えりさんには感謝申し上げます。
まだ公演をご覧になっていない方は、もしかしたら多少のネタバレになる可能性もありますので、ご了承ください。
まっさらな状態で見たい方は、お読みにならず、ご観劇ください。
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メインテーマ「ガラスの動物園のテーマ」についてのノート
ガラスの動物園の原作台本は、実はかなり音楽の指定が多く、上演にあたっての注釈でどのような音楽を使用するべきか指定されているのに加え、台本のト書きに音楽が流れるタイミングが細かく指定してあります。私が今まで見たガラスの動物園の映画や舞台は、その通りに演出しているものは比較的少数派であったように思いますが、今回のえりさんの上演台本、今作での音楽のタイミングは、かなり原作の指定に沿ったものだと思います。
中でも主題曲については、テネシー・ウィリアムズはかなり詳しく指定をしています。全部紹介すると長くなるので割愛・・今回の演出に乗れば、早回ししたくなるほど指定が細かく、正直「そんな都合のいい音楽ねえよ怒」と突っ込みたくなるほどです。(興味のある方は、ぜひ原作台本を購入してご覧になってください)
テネシー・ウィリアムズの指定を横目で参考にしつつ、えりさんの演出意図からの指示を受け、川本が留意した点は
・追憶の曲である
・ローラとガラスの動物園に対して、象徴的であること
・演劇全体や各シーンとの感情的なリンクは厳密でなくてよい
ということでした。
記憶が音楽に伴って出てくることというのは、誰しも経験があることだと思います。青春時代の曲と共に若い頃の甘く苦い思い出が出てくるなんてことはよくあることでしょう。この劇の冒頭でもトムは「追憶の世界ではすべてが音楽に誘われて浮かんでくるように思います」と述べています。つまり、ガラスの動物園のテーマ曲は、トムにとって家族と過ごした時間を思い起こさせる思い出の曲=追憶の曲という位置付けになるのではないかと。私はそれは、ローラと彼女が愛でていたガラスの動物園を象徴するメロディになるのではないか、と考えました。
さらに、思い出の曲とそれによって引き出される記憶は、実はほとんど感情的なリンクがないことが多いです。めっちゃ明るくノリノリの曲がヒットしていてよく聴いていた時期に失恋をしたためにその曲と失恋の苦さがリンクしたなんてことは十分にありうる話でしょうし、むしろその曲想と記憶の感情的な乖離がさらに追憶の切なさや哀しさを助長したりすることもあるでしょう。
そんなことを考えた結果、ローラがガラスの動物園の世界に入り込んで楽しんでいる時に、彼女の中で鳴っているだろう明るく軽やかで、そして平和なメロディ。それをガラスの動物園のテーマとしてイメージして曲を作ることにしました。
もう一つ、原作台本の中の音楽の指定の中に面白い記述がありました。
「たとえばサーカスの音楽が、場内や行列のすぐそばにいなくても、遠くにいてなにかほかのことを考えている時にさえ聞こえてくるように、観客の耳に入ってくる(小田島訳参照)」
すごく面白い音楽のあり方だな、と思いました。私はこの記述をみて、ディスニーランドのエレクトリカルパレードのテーマを思い浮かべました。あの曲は園内のどこにいてもどこかしらから聞こえてきます。園内にいる客の感情を全く考慮せず流れ、聞こえ続けます。楽しい気分になる時もあれば、ちょっと狂気を感じる時もあります。そして帰る頃には頭の中がその曲で支配されるように耳に残って、園内で遊んだ記憶と強制的にリンクされます。
テネシー・ウィリアムズにとっての追憶の曲というのは、こういうイメージだったのでしょうか。でも確かにこのやり方でならば、語り部としてのトム、劇中の登場人物たち、そしてそれを観ている観客、時間軸と場所が異なる人たちをつなぐ糸に、主題曲がなり得ますね。
テネシー・ウィリアムズはガラスの動物園のテーマにはそういう役割を求めているのでしょうか??
演出のえりさんからは、明るく、かつ泣ける曲をという指示がありました。参考資料としてチャップリンのLIME LIGHTのテーマ曲を挙げられておりました。明るく泣ける曲、たしかに!これは名曲です。
またこれはえりさんの舞台の音楽を作らせていただく時にかならず心がけていることですが、「観にきたお客さんが口ずさんで帰れるような親しみやすい曲」ということ。
これらの条件をならべて数日うんうんと唸った結果、あのようなメロディの曲が出来上がりました。
台本の指示通り、劇中で何度も演奏されています。さて皆さまの耳には、どのような印象を残しましたでしょうか。
曲を三人ではっきり演奏している場面の他、メロディの変奏曲やコントラバスのソロで弾いている場面、あとは台詞裏の音楽の中にこっそりモチーフを紛れ込ませたりもしています。お気づきになりましたでしょうか。
パンフレットにも書きましたが、みなさまの追憶の曲の体験と重ね合わせて楽しんでいただければ幸いですし、またこのガラスの動物園の思い出として、このメロディが残れば、わたくしは幸せでございます。
ついでの話になりますが。
過去、いろんな巨匠がこのガラスの動物園の音楽を手掛けてらっしゃって、わたくしみたいな駆け出しが御託を並べるのもおこがましい話なのですが、過去のガラスの動物園の音楽をいろいろ調べて聴くのは本当に興味深かったです。
特に印象に残っているのは、ヘンリー・マンシーニが手掛けた1987年ポール・ニューマン監督の映画版の音楽です。これはさすが匠の技とも言うべき素晴らしい曲なのですが、私が考えたような方向ではなく、映画全体の雰囲気を象徴するような曲想でした。そして何より注目すべきは、この映画の中で、ガラスの動物園の初演時の曲が使われているということです。初演の音楽はPaul Bowlsという作曲家が書いたものなのですが、この曲がちゃんと使われているんですね。
それをきっかけに調べをすすめまして、なんと初演時の曲を収録したLPを手にいれることに成功しました。この曲がまた・・・
という話は長くなりますのでまた、別の機会にでも。
今回はこれにて。
劇中の他の曲もまた解説は続けようと思います。
長々とどうもありがとうごさいました。
また次回、劇中の別の曲について解説??します。
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↓川本は12月に以下のライブを企画しています。
ご興味持ってくださった方、ぜひ遊びにいらしてください。
楽しいライブになりますよ。
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Partyのお知らせ!
コロナ禍をきっかけに始まった遠隔セッション配信番組「Live Jazz Streaming」が3周年の節目に記念ライブを行います。配信にゲスト出演した日本のジャズシーンの実力派ミュージシャンたちが再集結し、なかなか聞くことのできない貴重な共演が実現します。
またリーダーのピアニスト佐久間優子が描いた、配信告知用フリップの原画展も同時開催されます。ポップでかわいらしいイラストで表現された出演ミュージシャンたちの音楽世界をライブと一緒に楽しめます。ディスプレイ越しだったLive Jazz Streamingの音楽を、メンバーとリスナーが初めて同じ場所に集い共有する特別な夜の感動を体験してください!
12月17日(日)
Live Jazz Streaming
3rd Anniversary Live Party
【会場】
渋谷 JZ Brat
【時間】
1st Show →Open 14:00 Start 15:00(16:20終演予定)
2nd Show →Open 18:30 Start 19:30(20:50終演予定)
【システム】
入替制
予約¥5,000 当日¥5,500
2ステージ通し(1st&2nd)¥9,500 ※ご予約者対象
【メンバー】
<Live Jazz Streaming>
佐久間優子(p)
川本悠自(b)
海老澤幸二(ds)
橋本敏邦(engineer)
Special Guest:
松原慶史(g&vo)※1st
平山順子(as)※1st
山本玲子(vib)※1st
寝占友梨絵(vo)※2nd
土田晴信(org)※2nd
三井大生(vln)※2nd
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Live Jazz Streamingについてはコチラから!