
1964 2020
・・・って、電話番号じゃないですよ。今回は曲紹介の最終回です。
アルバムの最後を飾る、8曲目、9曲目の紹介をしたいと思います。
数字を見てピンと来る方も多いと思いますが、どちらもオリンピックの開催年です。この2曲はオリンピックがモチーフの兄弟曲です。
ほとんどの日本人は1964年の東京オリンピックは日本の高度経済成長期のきっかけとなったエポックメイクングなイベントとして教わります。1978生まれの私も例外ではありません。東京オリンピックの成功を起爆剤に日本は戦後復興から更に先のフェーズへと向かったと。そう現代史の教科書には書いてあります。
2019年の11月頃。私が1964の元となる曲を練り始めた時、日本全体が東京オリンピックが具体的な準備段階に入ったという雰囲気の最中でした。その時ちょうどNHKで前回の1964年の東京オリンピックの「影」の部分にスポットを当てたのドキュメンタリーをやっていたのですね。それは1964オリンピックにポジティブなイメージしか持っていなかった私にとってはとてもショッキングな内容でした。
1964オリンピックの開催前、東京がいかに前近代的な不衛生な街であったかということ、そして世論のほとんどがオリンピック開催に対して否定的であったこと。オリンピック成功の演出のために様々な政治力が働いていたこと。そして開催後、日本経済は深刻な不景気に陥ったこと。オリンピックの熱狂はそのネガティブな状況をすべて覆し、その後の世代には東京オリンピックがパーフェクトな歴史的成功事例として語られていること。
歴史とは人の為す行いの記録ですから常に主観がついてまわります。後世に語られる歴史は常に為政者のバイアスがかかったものです。1964オリンピックがいかにネガティブな状況のもとで行われていたとしても、そのパフォーマンスに国民が熱狂すれば、その後の流れとして国が経済成長を成し遂げたならば、それ以前に存在していたネガティブな状況や社会の歪みというのは忘れ去られてしまい、歴史から消し去られてしまう=忘れ去られてしまうことになるのだと。そのドキュメンタリーは示唆していたように私は感じました。そんなことで果たしていいのだろうか、と思いながら1964を書きまして、そのアンサーソングとして同じモチーフを使った2020を書きました。それが2020年1月です。コロナ禍の直前ですね。
そこから先はみなさまよく御存知の通りです。コロナ禍で開催が危ぶまれ賛否両論轟々の中、Tokyo2020は開催され、閉幕しました。
スポーツは素晴らしい。人が極限まで努力し挑戦する姿は見る人に感動を与える。これは否定しようのない事実です。感動した人も多いでしょうし、私も野球が金メダル取った瞬間は観ていてグッときました。でも問題はここからあとで、ここまでの経緯を、このオリンピック開催が露わにした社会の歪みを、喉元すぎれば熱さ忘れる、のように反省なしに背後に放り投げてしまうことになりはしないか、1964の轍を踏むことになりはしないか・・・。
2021年3月に録音されたこの二曲は、私の中では、そんなオリンピックと今という時代への思いを込めたつもりの曲です。
よく聞いていただければ1964と2020で同じモチーフとメロディが使われていることがわかると思います。叙情的な展開の曲をドラムの河村亮が見事なダイナミクスコントロールて演出してくれています。感謝。
収録曲の紹介はこれにて終了。
長々とお付き合いありがとうございました!
このあとはアルバム制作にまつわる裏話など、ぼちぼちお話していければと思います。
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川本悠自カルテット
2nd オリジナルアルバム「One Step at a Time」
以下のリンクから、各種サブスクリプションサービス、配信サービスで聞くことができます。
ぜひお手元のデバイスでお楽しみください。
ご存知、コロナ禍でミュージシャンは音楽活動が厳しく制限されました。そんな状況下で色々な音楽表現を模索しつつの制作作業でありましたが、不要不急と言われながらも、結局は自分のできることを諦めずに一つづつ進めていくしかないな、という思いから、一歩一歩進むという意味の「One Step at a Time」というアルバムタイトルとしています。
今作は、インストゥメンタル6曲に加え、女優・劇作家の渡辺えりさんの作詞による劇中歌(#5,#6)などを含むボーカル曲3曲を加えた全9曲収録。川本自身が日本でジャズミュージシャンとして活動していく中で考える日本人による日本のジャズの形の提示を目指した意欲作です。
<収録曲>
1. 白雲一片去悠々
2. Fall
3. 曇り火
4. Climber’s High
5. 星の降る夜(音楽劇・肉の海より)
6. なみだ(音楽劇・肉の海より)
7. Amanda’s Theme
8. 1964
9. 2020
作曲 川本悠自
作詞 Note73(#4)、渡辺えり(#5、#6)
Bass 川本悠自
Tenor Sax 杉本匡教
Piano 武藤勇樹
Drums 河村亮
Vocal 寝占友梨絵(#4、#5、#6)