8月も後半になると、日も短くなる。
夕方のこの時間はまだまだ人通りはあるのだけれど、
時間帯のせいか、節電対策か何か知らないが、
街灯はついていなくて道はけっこう暗い。
薄暗い中、僕はいそいそと歩いて家に向かっていた。
突然、銃声が聞こえた。何事かと音がした方を振り向く前に、
「銀行強盗だ!静かにしろ!」
と大声で怒鳴る声がすぐそばで聞こえた。
考えるヒマもなく、荷物を投げ出し、手を頭の上に乗せ、
腹這いの状態になる。まさかこんな街中で強盗に合うとは。
強盗は通行人に向かって銃を向け、なにやら怒鳴っている。
でもこの人通りだし、何より道の上だし、一人一人に目が行く訳もない。
僕はほふく前進でこっそり逃げる事にした。そのとたん。
「一人ひとり名前を呼ぶ!呼ばれたものはこっちに来い!
まず・・・・ 川本悠自!!」
ええっっ!
イキナリですか・・・
逃げようとしているのが見透かされたのか、僕はほふく前進の姿勢のまま、足首から引っ張られて強盗の方に引きずられた。
名前を呼ばれて一ヶ所に集められた人たちは道端で思い思いの姿勢でうずくまっていた。体を拘束されている様子もない。が、携帯などで助けを呼ぼうとす人もいない。よくわからないが、携帯を取り出して銀行ご・・くらいまでメールを打とうとすると、回りからものすごい注目を浴びる。・・ダメ?ダメなの?そうかー・・
しばらくして、GANTZスーツみたいな、ものものしい黒のつなぎに身を包んだ強盗の一味が僕らの一群の方へやって来てこういった。
「君らにはバイトをしてもらう」
バイト?!強盗じゃなくて?
ワケもわからず、僕のまわりの一群は、黒い強盗のあとをついて行った。
ものの5分もしない移動時間でついた所は、何かの施設の様だった。
学校くらいの広い敷地に公民館みたいな建物と砂場や遊具があって、おそらく麻のような生地でできている、ネズミ男みたいな灰色のフードをまとった老若男女が思い思い体を動かしていた。
なにより、この施設全体が、大きく窪んだ場所にあった。
僕らが立っている道沿いの施設の門から、砂地のきつめの下りの傾斜が10mくらい続いて、その先に施設があった。だから僕らがいま立っているところからは、施設全体が俯瞰できた。
施設の門には「宗教法人 羊の会」と書かれていた。
黒い強盗が僕ら一群の前に立って言った。
「君たちにはここの掃除を手伝ってもらう」
たまたま僕は、その建物を俯瞰できる光景が面白くて、一群の中で一番前にいた。
そのためか、一番はじめに強盗と目が合って、まずお前が行け、と言われてしまった。
僕と、もう一人若い女の子が先陣に指名され、おそるおそる、その砂の崖を下る事になった。砂地だからそんなに危険はないのだが、それでも傾斜がけっこうきつい。油断をするとバランスをくずして転がってしまうし、一度下りきってしまうと、サラサラした砂だけに足場もなく、登るのはかなり苦労するだろう。
僕とその女の子は崖に尻餅をつくような格好で、滑りながら降りて行った。
苦労しながら丁度下りきった時、上にいた黒強盗がなにか大声で叫んだ。
よく聞こえない。聞こえないけれど、彼は叫んだ後、一群を連れて立ち去って行った。話が違う。ここでバイトをするのだろ。僕らが下りた後、他の人たちも続いて下りてくるはずだ。なのに下りたのは僕とその女の子だけ。目の前にはそう簡単には登れない10mの砂の崖。後ろには施設。わけのわからない新興宗教。
だまされた。バイトと称してこの新興宗教に人員を補充するためのワナだったのか?!
僕は怒った。こんな事許されない。このままのうのうと受け入れてたまるものか。きっと外から見たら僕は赤い色になっていたに違いない。それくらい怒りを覚えた。無我夢中で砂の崖を登った。足場が悪い。滑る。でもそんなことはおかまい無しに足を動かした。怒りの固まりみたいな感じで崖を登った。
ついに登りきった僕はそのままの勢いで、まだ近くにいた黒強盗に殴り掛かった。
だいたい、お前が悪い。街中で強盗まがいのことをして人を拉致して許されると思ってるのか。GANTZスーツだろうとなんだろうと、一発くらい殴ってやらないと気がすまない。
目の前に驚いた黒強盗の顔がクローズアップされ、僕の右の拳は完全にその顔を射程内に捉えた。何年ぶりか本気のグーで人の顔を殴ろうとしていた。
拳に人のほお骨の感触があって、黒強盗の顔がゆがむ・・・
・・はずが・・
あれ?
僕の拳は、黒強盗の顔をすり抜けて、大きく空振りしていた。
想定されていた抵抗物を失った右の拳はそのまま勢い余って地面に向かい、その拳に引きずられて僕の体も地面に転がった。
何が起きた?!
黒強盗の様子を見るべく振り向く前に、すぐそばで声が聞こえた。
「残念だったね、川本君。私はホロスコープだよ。実体は別にある」
ホロスコープ?!
映像だってこと?!
そんなのありかよ!!!!
と思ったところで目が覚めた。
おつきあいありがとうございました。